厳寒の地における林業技術の開発

  

 軍馬補充部時代における天然林の伐採や火入れ,および1951(昭和26)年の山火事(約200ha)は,森林管理方針に大きな影響を与え,伐採・山火事跡地の造林を早急に行うこととなります.「厳寒地における林業技術の開発と改良」が精力的に進められますが,その成果は地元の林業にも大いに寄与することとなります.

■交互区画皆伐作業法

   

 1951(昭和26)年から最初に導入された森林育成技術です.植栽地(更新面)の環境をよりマイルドにするため,大面積を一斉に伐採・造林するのではなく,天然林あるいは成長した人工林(先行して植栽された更新面)によって新たな更新面を風などから保護しようとする作業法です.寒風から苗をいかにして守るかを課題とした技術開発です.

 

交互区画作業を適用した一例(13林班)

■掌状作業法

  

 交互区画皆伐作業法の経験に基づき開発された作業法です.
尾根部における植栽木の生育が芳しくなかったことから,尾根部に広く天然林を残し,谷筋に沿って人工林を育成しようとするものです.ただし,沢筋であっても湿地など造林不適地については天然林を残します.

 これら天然林は人工林を風害や水害から保護する役目,つまり「保護樹帯」としての機能と,択伐による木材生産機能とを兼ねています.このことから本作業法では「択伐区」と言います.
九州の造林地に見られる保護樹帯に比べ,その幅は広いのが特徴です.              

 一方,人工植栽を行う所は皆伐を行うことから「皆伐区」と言い,植栽樹種はカラマツに限らず,場の環境に合わせ,トドマツ,アカエゾマツなどの常緑針葉樹,あるいはナラ,ハルニレ,カツラ,ヤチダモなどの有用広葉樹を植栽します.この作業法は1962(昭和37)年から実行されています.

  

掌状作業法試験区(皆伐区に広葉樹数種が植栽)

掌状作業法を適用した一例(24林班)

■細胞式舌状皆伐作業法

  

 北海道の天然林にはミズナラ,オオバボダイジュ,ヤチダモなど多くの広葉樹が豊富でした.これら広葉樹は伐採によって急激に減少しています.
天然林からの収奪的な木材生産から脱却するためには,広葉樹を育成し持続的生産可能な森林を造り上げることが必要です.細胞式舌状皆伐作業法は良質なナラ材を持続的に生産する森林育成技術です.

一般の針葉樹造林では苗畑で育成された苗木を用いますが,本作業法ではナラの種子(ドングリ)を利用します.発芽後の定着を確実にするため,最初の3〜4年間に「下種地拵」,「種子覆土」,「ササ刈払」などの作業を行ない,後は除伐,枝打ち,間伐と一般の人工林の場合と同様です.
何より特徴的なのは150年という長期間をかけることです.ナラはこれくらい時間をかけないと良質大系材ができないからです.

 模型をご覧下さい.総面積203haに150区の更新面が設定されています.更新面とは上記作業を行い,ナラ林を育成していく場所です.
 
なぜ150区なのでしょうか?

 毎年1区ずつ更新していくと150年目に全区の更新が完了します.北海道演習林では1972年に開始しましたので2121年に完了します.その時には小さな実生が密生している区から,150年の大木が林立する区まで連続し存在することになります.そして150年に達した区から伐採を行い,その後2巡目の更新に入りますので,未来永劫ナラ材の生産が可能となります.

■カラマツ林作業法

 

 十勝地方は全国有数のカラマツ林業地域ですが,歴史は新しく,古い林でも50年ほどの林齢です.

 カラマツは北海道に天然分布しない樹木ですが,戦後の荒廃した山々の早期緑化のため導入されました.若いカラマツから得た木材は「ねじれ」がひどく,輸送用パレット材や梱包材などにしか利用されていません.

 北海道演習林では1952(昭和27)年からカラマツの造林を開始しました.ここでは建築用材として利用できる「高品位カラマツ材生産」を目指した作業法を開発,実行しています.本作業法において最も特徴的なのが「8mまでの枝打」で,1本のカラマツから無節材を2本生産しようというものです.枝打を導入した本作業法は,北海道において画期的な育林方法として評価されています.

高さ8mまでの枝打ち作業

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『森・水・人』−学術の森による森林生態圏科学の展開