大気汚染物質が立山黒部アルペンルート沿いの森林に及ぼしている影響

久米篤(富山大・理),沼田智史(富山大・理),渡辺幸一(富山県立大),朴木英治(富山市科博),中島春樹(富山県林業技術セ),石田仁(岐阜大・応用生物)

立山黒部アルペンルートは富山県と長野県を結ぶ山岳観光ルートで,毎年4月から11月までに約100万人の観光客が通過する。美女平(標高977m)から室堂(標高2450m)までは主に大型バスによって輸送されるが,道路沿いのブナ林で樹木の枯死が目立つことから,排気ガスの悪影響が指摘されてきた。一方,日本海に面しているため,大陸からのO3, SO42-などの広域大気汚染の影響も予想される。そこで,ブナ平(標高1180m)において,バス通行量と大気汚染,森林動態との関係について測定・解析を行った。1999年に道路脇のブナ・スギ混交林に100m×100mの調査区を設定し,毎木調査・マッピングを行い,その後の枯死・衰退程度を記録した。2006年9月から11月にかけて道路脇から森林内部に小川式パッシブサンプラーを設置し,NO2とO3濃度を測定し,美女平では連続測定を行った。平均NO2濃度は,バス通行量と高い相関を示し,道路際で最も高く,道路から70m離れた森林内でも影響が確認された。しかし,平均NO2濃度は通行量が最も多い期間の道路際においても3.5ppbv以下であり道路由来の大気汚染が森林に直接的な影響を与えている可能性は低く,一般車乗り入れ規制の高い効果が考えられた。実際,樹木の各種成長指標は,いずれも道路からの距離とは相関しなかった。一方,O3濃度は,道路からの距離にかかわらず高い値を示し,平均濃度が60ppbvを越えることもあった。7年間の枯死木の大半はブナで,大木ほど肥大成長が減少する傾向が見られたが,スギでは大木ほど肥大成長が増大していた。O3濃度はO3感受性のブナの衰退を引き起こすほどに上昇しており,ブナ衰退で生じたギャップにO3耐性で陽樹のスギが増大していた。

Ecological Research 24 821-831 (2009) DOI:10.1007/s11284-008-0557-2