本演習林は総面積482haで,福岡市の東部に位置し,福岡県粕屋郡篠栗町と久山町にまたがって散在する.標高30〜553mで,博多湾に注ぐ多々良川水系,新建川と金出川の源流部にあたる. 9〜11林班の地質は第三紀層で,凝灰岩や凝灰質砂岩の互層とからなっており,地形は標高100m以下の丘陵地形である.かつては石炭の採掘がおこなわれていた.その他の山岳地は古生層に属し,わが国最古の地層の一つである.そのほとんどが角閃岩からなるが,一部には蛇紋岩や閃緑岩,巨晶花崗岩などの分布もみられる.
庁舎構内における1969年以降の気象観測によると年平均気温16℃,暖かさの指数134,年降水量1790mm,降霜期間は11月中旬から3月下句,降雪は12月中旬に始まる.梅雨期や台風のもたらす集中豪雨による斜面崩壊や林道法面侵食などの被害,また降雪により造林木が雪害を受けることもある.
本地域の自然植生は,アカガシ,ウラジロガシなどのカシ類,シイ顆,タブ,ヤブニッケイ,カゴノキ,ヤブツバキ,ヒサカキ,ヤマモモなどからなる暖温帯常緑広葉樹林(照葉樹林)が主であり,尾根部などの比較的乾燥したところには,イヌシデ,コナラ,クリなどの落葉広葉樹林が分布する.かつてはマツ林も少なからずみられたが,その多くはマツクイムシ被害を被ったために伐採された.人工林のほとんどはスギ林,ヒノキ林で,最も古い人工林は125年生のスギ林で,学術参考保護林に指定されている.
本演における研究および教育は,学術参考保護林,各種施業試験区を中心におこなわれている.さらに演内には固定試験地が設定されており,ここでは長期間にわたる調査とデータの集積を必要とする研究がおこなわれている.1993年9月現在で19試験地が存在し,主なものとして,ヒノキ林分成長量試験地,スギ林分成長量試験地,ヒノキ品種別植栽調査地,椿品種栽培試験地,スギ品種別造林試験地,巣枯試験地,植栽密度試験地,シイタケ原木肥培試験地,食用菌昔顆の栽培試験地,山菜栽培試験地など.
学生実習(平成4年度)は,九大林学科による森林測量学実習,森林工学実習,造林学実習,砂防工学実習の計4実習がおこなわれている.本演は農学部キャンパスに最も近い演習林であることから,教官,大学院生,学部学生により研究フィールドとして活用されているが,さらに,福岡市近郊に位置することから,多数の一般市民により利用されている.
地種・林種別面積(ha) [1987年3月現在]
区分 | 林地 | 余地 | 計 | |||
学術参考林 | 見本木 | 保全試験林 | 経営試験林 | |||
人工林 | 1 | 40 | 4 | 246 | - | 291(60.4%) |
天然林 | 9 | 26 | 26 | 89 | - | 150(31.1%) |
無立木地 | - | - | - | - | 41 | 41(8.5%) |
計 | 10(2.1%) | 66(13.7%) | 30(6.2%) | 335(69.5%) | 41(8.5%) | 482(100.0%) |
蓄積(m3) [1987年3月現在]
針葉樹 | 広葉樹 | 計 | haあたり | |
人工林 | 60833 | 1273 | 62106(84.4%) | 185.0 |
天然林 | 2528 | 8987 | 11515(15.6%) | 108.9 |
計 | 63361(86.1%) | 10260(13.9%) | 73621(100.0%) | 155.3 |
本演習林9〜11林班に,社会や人間生活に密着した有用な植物を中心に,植物遺伝子の収集および保存を目的とした資源植物園がある.本植物園は『産業植物園』として1976年から造成に着手され,約30haにわたる範囲に樹木の植栽がおこなわれてきた.1986年に『資源植物園』と改称しし,1991年に新たな整備計画が策定され,現在,本計画に沿って整備がおこなわれている.亜熱帯植物区,常緑広葉樹区,ナラ,カシワ区,芝生広場区など12に区分され,約350種,8000本近い樹木が植栽されている.関連分野の研究試料として,また樹木学などの教育材料としての活用を始め,近郊の小,中学生など一般市民の社会教育の場としても活用されている.また,10林班には,屋久杉や台湾檜をはじめ各種の材鑑,および戦前の外地演習林の所蔵標本を収納した標本館がある.
本実習場(50ha)は,1922年『早良演習林』として設置された.1993年10月,管理と運営の効率化をはかるため,『福岡演習林早良実習場』と改称し,福岡演習林として管理されることとなった.本実習場は福岡市西区今津湾の海岸砂丘上に位置し,ほとんどはクロマツ,アカマツの海岸マツ林で覆われている.海岸砂防や海岸植生の実習の場として活用され,また,マツノザイセンチュウによるマツ枯れ,マツ林の天然更新,外国産マツ類の成長などに関する研究がおこなわれている.近年,隣接地が住宅地化し,また都市林としての性格も強くなってきたことから,都市林の造成手法や管理法,林野火災に対する抵抗林分造成に関する研究にも着手されている.なお本実習場は,防風保安林,文化財保護法による元寇防塁特別史跡,玄海国定公園,同第一種特別地域に指定されている.