森林生態学ゼミ 20040526

森林の生態〜樹木の生態生理を研究している人達の教室横断ゼミです。 第三回は、まもなく北海道に移住する田代が考えていることについて。御来聴歓迎。

日時/場所

2004年5月26日 16:00 / 九州大学農学部2号館517号室

講演

樹の生活と形の関係

演習林
田代 直明

一般に植物は、 タネが落ちて芽生えた所からはあまり移動できない固着性の生き物であって、 暮らしよい環境を選んで移動することができる動物などとは、 この点で異なる工夫がなくては生きていけません。 特に樹木の場合は、発芽から繁殖に至る時間が長く、 個体を取り巻く空間の変化の幅も大きいので、 それによる環境変化に対応する必要があると考えられます。 この、樹木が生涯を通して経験する環境変化の幅は、 高木か低木か、遷移初期種か後期種かなど、 その種が持つ生活史のパタンと密接に関係しています。

一方、樹木は、葉で受けた光をエネルギーとして光合成を行い、 得られた光合成産物を葉や枝、幹、根など自らの体を作ることに使っています。 したがって、幹や枝をどのように作って葉をどのように配置するかによって、 葉が受けられる光の量、稼げる光合成産物の量と個体内の収支が決まり、 生きるか死ぬか、葉や枝や幹を次にどれだけ作れるかが決まります。 こうしたいわば自転車操業のくり返しの結果が、 私達が見ることのできる樹の形に現れていて、 明るいところで他個体と競争している樹の形や、 暗いところでできるだけ死を先延ばししようと粘っている樹の形などには、 それぞれ種を越えた共通のパタンを見出すことができます。

こうした、樹木の樹冠の作り方と、 生活史に関連した「樹木が生涯を通して経験する環境変化の幅」との関係を考えています。 例えば遷移後期の森に優占する耐陰性が高いとされている種でも、 必ずしも暗い林床の環境で繁殖しているわけではありません。 このような種においては、 暗さを我慢する樹冠形成と競争的な樹冠形成を切替える能力が必要と思われます。

今回は、樹冠形成のパタンは可塑性を持ち、 その幅は生活史を通して経験する環境変化の幅に関係して種ごとに異なるのではないか、 という予測に基づいた事例について紹介します。

連絡先

田代 直明: nao@forest.kyushu-u.ac.jp

URL: http://www.forest.kyushu-u.ac.jp/staff/tashiro/nanmin/index.html