1.ヌマスギ見本林
ヌマスギは,ヒノキ科ヌマスギ属のラクウショウ(Taxodium distichum (L.) Rich.)の別名である.ラクウショウは北米東南部・メキシコ原産の落葉針葉樹で高木となり,沼地や湿地を好む樹木である.湿地に植えられると,しばしば呼吸を行うために気根を出す.
ヌマスギ見本林は,鬼ヶ浦地区の11林班内(33°38′ N,130°30′E,標高35m)に位置し,1977年3月に7本の巣植2組,計14本が植栽された.この林分は池の縁にあり,時期によっては水没する。この見本林を囲む蒲田池周辺は,2010年7月から福岡演習林事務所のある篠栗町との共同管理のもと,「篠栗九大の森」として市民に広く開放されている.
2.陣場の大杉見本林
新建地区の13林班内(33°39′N,130°32′E,標高402m)に位置し,1869(明治2)年に植栽された藩政時代最後の造林と伝えられている福岡演習林最古のスギ林である(大崎・長澤 1997).1922(大正11)年に国有林から移管を受けて以降,育林管理として,つる切り・除伐は1977年と1983年に,除伐は1991年,1995年,1998年および2002年に,間伐は1977~1978年に,風倒木伐採は1991年にそれぞれ実施された.1978年に間伐が行われた時の記録によると1977~1978年の間伐では30%の本数間伐が行われ,間伐木の樹齢は108~110年,平均材積は1.05m3/本だった.また1991年の風倒木伐採時の平均材積は1.76m3/本だった.1995年10月に行われた毎木調査の結果は,平均胸高直径 59cm(最大116cm),平均樹高30m,立木密度201本/ha,蓄積は620m3/haだった(大崎・長澤 1997).
3.クスノキ見本林
16林班および17林班には高齢のクスノキ(Cinnamomum camphora (L.)J. Presl)が比較的まとまって生育している.この林分は,戦前,台湾を含む国内各地において樟脳生産を目的にクスノキ造林が奨励された時代に植えられたものである.近年,各地のクスノキ造林地が消失していく一方で文化財修復用の大径材の不足が指摘されている.このことを背景に,2012年3月にクスノキ人工林(1.67ha)が文化庁の「ふるさと文化財の 森 – クスノキ材供給林 – 」として認定された.「ふるさと文化財の森」は,国宝,重要文化財などの文化財建造物に必要な資材のモデル供給林及び技能者育成のための研修林として相応しい林として設定され,文化財建造物の修理用資材の生産に関する見本林として調査を行うとともに教育資料として活用することを目的としている.
4.外国産ヒノキ見本林
17林班ち小班には,中国・台湾産針葉樹林木育種試験地が設定されている(九州大学粕屋演習林 1983).この試験地には,苗畑で播種育苗した中国産のスギおよび台湾産の針葉樹類122本が1984年3月に植栽された.苗の内訳は中国産スギ80本(浙江省産54本,江西省産20本,四川省産6本),タイワンスギ10本(望郷産5本,速見産3本,円大産1本,台東産1本),台湾産コウヨウザン24本,台湾産ランダイスギ8本である.
5.ヒノキ見本林
福岡演習林(当時粕屋演習林)は,新建団地に隣接するス ギ・ヒノキの壮齢林(国有林)を1954年(昭和29年)に取得し,17~19 林班とした.現在も18林班には植栽後90年以上経過したヒノキ人工林が維持されている.この人工林の一部では,檜皮採取試験が行われており,2013年の樹木調査では,100本のヒノキの平均胸高直径が43.5cmであった(福岡演習林 未発表).ヒノキ見本林は,これまでに檜皮採取を実施していない林分を調査対象とした.