スギ・ヒノキ人工林の長伐期施業試験
スギ・ヒノキ人工林の育成技術に関する研究は糟屋演習林開設時から継承されている.教育研究に付するため本計画期もスギ・ヒノキの齢級構成を考慮したうえで植栽していくこととする.地位,傾斜,標高,土壌等の条件のもとで試験植栽し,データを蓄積することとする.
ヒノキ檜皮剥皮試験
檜皮は,主に樹齢70~80 年生以上のヒノキ生立木から採取される樹皮で,7世紀以降,神社建築や貴族の住居である寝殿造などの屋根葺材として用いられてきた.現在,わが国において国宝および重要文化財に指定されている檜皮葺の建造物は約700棟あり,これを維持するためには年間約3500㎡の葺き替えが必要となるとされている(後藤 1999).近年,檜皮採取の対象となる高樹齢ヒノキ林の減少や檜皮採取技能者である原皮師(もとかわし)数の減少に加え,檜皮採取がヒノキの成長阻害や材質低下をもたらすという見方が広がり,檜皮採取に協力する森林所有者が減少したことから,わが国の伝統建築物の維持に必要な檜皮材の安定供給体制の維持が危ぶまれている(八木 2000) 福岡演習林では,高樹齢ヒノキ生立木からの檜皮採取試験および檜皮採取が成長や材質にあたえる影響を評価するためのデータを蓄積する.
- 試験地:木造建造物文化財用大径.高品位ヒノキ材生産のための保育技術に関する研究試験地
- 樹種:ヒノキ人工林
- 場所:18林班
有用広葉樹育成試験
スギ,ヒノキ以外の樹種の人工林で,調査や試料の採取,路網の整備等に加えて,大規模な林地試験処理が可能な林分です.本演習林では,スギ・ヒノキ人工林に比べ面積的にはごくわずかですが,一部には本演習林創設時にすでに植えられていた高齢林分(クスノキ林,クヌギ林,コナラ林,ケヤキ林など)も存在します.
早生樹育成試験
スギやヒノキをはじめとする一般的な人工林では,建築などに用いる大きな木材を得ることを目的としているため,植林から最終的な伐採まで40年から60年ほどの長期間を必要とする.しかし近年は木質バイオマスの用途が多様化し,製材品だけでなく,パルプや合板,ボードの原料のほかに,バイオマス発電のエネルギー源としても注目されている.
短期間でこの木質バイオマスを得る手段として,早生樹による短伐期林業が注目されつつある.早生樹とは初期成長が速く,短期間に多量のバイオマスが収穫できる樹種のことであり,木材産業界だけでなく,林家や林野行政担当者など様々な分野の関係者が関心を寄せている.
しかし国内における早生樹の取り組みとしては,かつてユーカリなどの導入が試みられたことがあったものの,継続的な試験や産業化が図られることはほとんどなかった.そのため早生樹育成に関する科学的知見は乏しく,早生樹とされる各樹種の成長様式や木材の材質,育成技術,林地への影響は不明のままである.
そこで福岡演習林は農学研究院木質資源理学研究室との共同研究として,優れた初期成長が期待される国産樹種と外国産樹種の植栽育成試験地1.15haをかすや樹木園内に整備し,2015年春より試験を開始した.国産樹種としてはセンダン,ケンポナシ,チャンチンモドキを,外国産樹種としてはチャンチン,ユリノキ,ニセアカシア,コウヨウザン,アオギリ,ユーカリ属4種を,それぞれあせて約350本植栽し,毎年定期的な森林管理と成長量調査を実施し,その経年変化を長期的にモニタリングすることとしている.
文化財修理用クスノキ材生産試験
16林班・17林班には高齢のクスノキが比較的まとまって生育している.この林分は,戦前,台湾を含む国内各地において樟脳生産を目的にクスノキ造林が奨励された時代に植えられたものである.近年,各地のクスノキ造林地が消失していく一方で文化財修復用の大径材の不足が指摘されている.このことを背景に,2011(平成23)年度(2012年3月)にクスノキ人工林(1.67ha)は文化庁の「ふるさと文化財の森-クスノキ材供給林-」として認定された.「ふるさと文化財の森」は,国宝,重要文化財などの文化財建造物に必要な資材のモデル供給林及び技能者育成のための研修林として相応しい林に設定され,学生・一般市民に対する文化財教育への貢献も求められている.文化財建造物の修理用資材の生産に関する見本林として調査を行うとともに教育資料として活用する.具体的には,調査区を設定し,成長や材質の長期モニタリングを実施する.
学術参考保護林
天然生林であり,教育研究目的での試料の採取や調査,整備のための歩道および林道の開設は可能ですが林地の処理は行わない森林区分です.森林区分のひとつとして学術参考保護林を定義し,植生調査データ,福岡県レッドデータブック2011等をもとに希少性が高い林分および本演習林の代表的な植生を含む林分と判断された以下の5箇所を指定しています.
- つる性木本植物学術参考保護林
- モミ・コバノミツバツツジ学術参考保護林
- ネズミサシ学術参考保護林
- リュウキュウマメガキ学術参考保護林
- シイ・カシ類学術参考保護林
(学術参考保護林のページはこちら)
見本林
人工林.教育研究目的での試料の採取や調査,整備のための歩道および林道の開設は可能ですが林地の処理は行わない森林区分です.高樹齢で教材あるいは研究材料として価値のある以下の人工林5箇所を指定しています.
- ヌマスギ見本林
- 陣馬の大杉見本林
- クスノキ見本林
- 外国産ヒノキ見本林
- ヒノキ見本林
(見本林のページはこちら)
植生遷移モニタリング
演習林の使命の一つは教育研究に資するための様々な森林,緑地を整備することである.九州大学農学部附属演習林福岡演習林(以下,福岡演習林)は市街地に近接し,里山林と人工林の占める割合が大きいが,一部には草地も存在している.この草地は森林を改変して造成されたものであり,草地の刈り取り処理を停止すれば,やがて二次遷移による森林の形成が予想される.これまで草地,なかでも牧草地が放棄された後の植生遷移について日本各地で報告されている.しかし,これらの報告の多くは放棄後一定期間経過した時点での植生を解析したものであり,同一の草地における長期的な植生遷移をモニタリングした例は少ない. そこで,福岡演習林内の草地において刈り取り処理停止区を設定し,調査区内での植生の変化を長期的にモニタリングすることで,草地から森林への二次遷移の長期動態を明らかにする.
長期タケモニタリング
里山においてタケ類はその筍や竹材が持続的に利用できる資源である.近年,竹林の利用が減少しており,放棄竹林の増加が懸念されている.筍の発生数は,オモテ年,ウラ年と言われるように,年によって大きな変動がある.しかしながら、実際に放棄竹林において筍の年々変動を長期間にわたり観測した報告例はなく,また,それが種によってどの様に変化するのかは分かっていない.そこで,福岡演習林のタケ類が生育している山域で,長期間(少なくとも10年以上)にわたり,タケノコの発生数と枯死数を記録し,竹林の動態を明らかにすることを目的とする.
里山林動態モニタリング
植生調査・萌芽調査
人間の生活環境に近接する森林は里山林(注)として定期的に伐採され,算出する木材が生活物資として利用されてきた.このような里山林は社会構造の変化により消失しつつあり,その保全の是非が議論されている.現在の生活環境における里山林の保全を科学的に検討するためには,当該地域における里山林の動態に関する長期的データが必要となる.里山林は様々な伐採間隔で維持管理されてきており,この伐採間隔は里山林の森林構造に大きな影響を与えることが考えられる.そこで,以前は里山林として利用されてきた林地において,伐採頻度の異なる二次林を造成し,その長期的な動態をモニタリングすることで,里山林の科学的管理の基盤データを提供することとする.
(注)里山林:居住地域近くに広がり,薪炭用材の伐採,落葉の採取等を通じて地域住民に継続的に利用されることにより,維持・管理されてきた森林(H25森林・林業白書)
定点撮影
演習林内に定点撮影ポイントを設置し,年2回(状況により年4回)撮影を実施し,植生の変化を追う. 2014年度から里山林動態モニタリングで3箇所の定点撮影を行っている.
モニタリングサイト1000
2006年度九州大学福岡演習林が環境省モニタリングサイト1000の準コアサイトに認定された.
- モニタリングサイト1000ホームページ
http://www.biodic.go.jp/moni1000/index.html
森林定点撮影
撹乱や遷移による林床および森林全体の変化を定性的に示す資料を得るために,林内の同一地点で同一画角の画像を定期的に取得する.
気象観測
福岡演習林の気象観測は事務所構内において,1967年4月1日から現在に至るまで約半世紀にわたって続けられている.1929年~1983年4月?までは粕屋演習林の旧事務所があった高田地区で観測されていた.
水質モニタリング
新建川源流域(上流15林班,下流13林班)において渓流水を,演習林構内(10林班)において雨水のサンプリングをそれぞれ行う.
ニホンジカ密度モニタリング
ニホンジカの増加に伴い農林被害が全国的に発生し,天然林における下層植生の衰退や,人工林における造林木の被害が顕在化している.森林に対するニホンジカの採食圧を定量的に評価するためにはその生息密度を把握する必要がある.そこで長期的はニホンジカの動態を把握することを目的に福岡,宮崎,北海道の3演習林において日中の目撃記録やスポットライトセンサスを用いた生息密度の長期計測を実施する.
センサーカメラによる動物調査
林内の動物を撮影し,動物相を記録する.
生物標本の収集
生物データベースの整備
(生物データベースのページはこちら)
かすや資料館
かすや資料館は,1979年に「標本室」という名称で設置され,国内外で収集した資料を保存してきた.2014年,名称を「かすや資料館」に改め,森林,林業,演習林に関する資料を展示し,学生教育および社会教育の場とすると同時に,各種標本,資料を収集,保存し,研究活動のための資材庫として活用することを目的に整備を進めている.
以下,かすや資料館の展示物リストを一部抜粋して掲載(2024.8.28時点)
(クリックすると大きい画像が表示されます.)
2.円板標本「チョウセンカラマツ・336年生」
(クリックすると大きい画像が表示されます.)
3.円板標本「ヤクスギ・年輪不明」
(クリックすると大きい画像が表示されます.)