宮崎演習林の研究サイト

森林動態モニタリング

天然林

宮崎演習林では,冷温帯性気候下のアカマツが優占する二次林に1カ所(広野サイト),針広混交林に2カ所(丸十サイト・合戦原サイト)が設置され調査を行った。森林動態モニタリングは,100mx100mの方形区を設置し,5年間隔で毎木調査を行う。胸高部位(1.3m)の周囲長が15cm以上の樹幹を対象に,スチールメジャーを用いてmm単位まで測定し,合わせて樹種の同定と個体位置の測定を行う。また,測定の長期継続に備えて樹幹にステンレス釘を打ち,アルミタグを針金で吊り下げ,測定位置にスプレーペンキを吹き付ける。

  • 広野サイト

2009


  • 丸十サイト

2007


  • 合戦原サイト

2007


学術参考保護林

本演習林の特徴的な植生を中心に特定の林相を比較的小面積で保全し,教育研究に供することを目的に設定した。現在は14ヶ所の学術参考保護林が設置され,長期的な森林動態のモニタリングを行っている。

  • アカマツ

この保護林は三方岳団地第15林班内の民有地との境界に近接した尾根筋に位置し(32°20′N,131°10′E,標高928m),区域面積は5.49haである。当区域は演習林の中でも比較的標高の低いところにあたるため常緑広葉樹が多く混じる。アカマツは大径で樹高の伸びも良く多くの優良木が生育している。

2007


  • アカマツ・ヒメコマツ

この保護林は三方岳団地第28林班内に位置し(32°22′N,131°09′E,標高1264m),区域面積は86.20haである。当初は第2次編成経営案説明書(1966~1975年)で学術参考保護林に指定された。第4次森林管理計画書(1986~1995年)では,「アカマツ学術参考保護林」に名称が改められた。この保護林にはアカマツと同様にヒメコマツも多く自生していることから,第5次森林管理計画書(1996~2005年)では「ヒメコマツ・アカマツ学術参考保護林」と改められた。

2009


  • コウヤマキ

この保護林は第3次編成経営案説明書(1976~1985年)で指定され,2025年現在で設定後50年以上が経過している。18林班内の西側に位置し(32°20′N,131°11′E,標高1180m),区域面積は101.45haである。尾根沿いにはコウヤマキやヒメコマツ・ツクシアケボノツツジが多く見られる。

2007


  • モミ・ツガA

この保護林は34林班の国道388号沿いに位置し(32°23′N,131°10′E,標高1082m),区域面積は7.24haである。当初はモミ・ツガ天然更新試験地として設定されたものであり,モミの大径木が多く見られる。

2007


  • モミ・ツガB

この保護林は三方岳団地の第22林班内(32°21′N,131°10′E,標高1061m)に位置し,区域面積は1.78haである。モミ・ツガは九州山地の天然林の主要樹種であり,宮崎演習林においても更新過程などの研究が進められた。この林分は1995年にモミ・ツガ林長期動態試験地に指定され,林分構造のモニタリングを行っている。現在,これらの過去のデータの有効利用を検討しており,過去の調査プロットを再現できれば,森林動態の推移の解明が期待される。

2011


  • スギ

この保護林は13林班内の北側にあたる平坦部(通称オキテバノデーラ)に位置し(32°19′N,131°10′E,標高1019m),区域面積は0.50haで胸高直径が20~100cmのスギが30本ほど見られる.このスギの経緯は,百数十年前に椎葉村大河内地区大藪集落の住民が,この場所で焼き畑によるヒエ造りをしていた頃にスギの穂を直挿したものと言われる。

2007


  • クリ・ミズナラ

この保護林は24林班の比較的立地条件の良い平坦な地形に位置し(32°22′N,131°10′E,標高1126m),区域面積は3.93haである。宮崎演習林設立以前に銅山で栄えた時期に薪炭材の伐採が行われており広葉樹の多い二次林である。

2007


  • ケヤキ・カエデ類

この保護林は9林班(萱原山)の登山道入口に位置し(32°21′N,131°07′E,標高854m),区域面積は9.41haである。当初はケヤキ天然更新試験地として設定され,林相はケヤキのほかカエデ類が多く自生しており,宮崎演習林では稀少なテツカエデやミツデカエデも確認される。また,演習林内でも最も標高が低く(600~900m)常緑の広葉樹が多くみられる。

2007


  • ブナ

この保護林は三方岳団地第37林班内の民有地との境界に近接した尾根筋に位置し(32°24′N,131°10′E,標高1318m),区域面積は5.28haである。ブナは本演習林に広く分布しているが,まとまって生育している所は少ない。また,近年ではブナの老木の倒木が目立つ場所が多く,健全なブナが多く残る当区域を保護林に設定した。

2008

2025


  • ツクシシャクナゲ

この保護林は三方岳団地第21林班内のジャ谷の上流部に位置し(32°22′N,131°11′E,標高1304m),区域面積は12.43haである。当初はツクシシャクナゲ群落保全試験地として1976年に設定された。ツクシシャクナゲは演習林の中では当区域以外で確認されておらず希少種である。

2006


  • ツクシアケボノツツジ

この保護林は三方岳団地第32・33林班界の尾根筋に位置し(32°23′N,131°10′E,標高1182m),区域面積は3.34haである。ツクシアケボノツツジは宮崎演習林では尾根筋に広く分布しており,毎年4~5月頃にピンク色の大きな花を付ける。

2007


  • サワグルミ・オヒョウ

この保護林は津野岳団地第4林班内のセンツキ谷沿いに位置し(32°22′N,131°05′E,標高1275m),区域面積は24.62haである。当区域は青々と苔生した岩の間を沢水が流れ,サワグルミやチドリノキなどの谷沿いを好む種が多く見られる。近年,シカの食害を受け枯死するオヒョウがしばしば見られる。

2007


  • シナノキ

この保護林は津野岳団地第3林班内の津野岳山頂付近に位置し(32°22′N,131°04′E,標高1536m),区域面積は2.99haである。シナノキは宮崎演習林では希少種であり,その中でも津野岳団地に多く自生している。


  • ヒコサンヒメシャラ・マンサク

この保護林は津野岳団地第3・4林班内の津野岳山頂付近に位置し(32°22′N,131°04′E,標高1580m),区域面積は2.57haである。当区域は演習林の中でも最も標高の高いところにあたり,多くのヒコサンヒメシャラやマンサクが自生している。

2023


見本林

人工林および二次林において特徴的な林相を持つ比較的小面積の林分を見本林として指定する。2009・2010年度に6カ所の見本林を設置し,教育研究のための基礎資料として林分のデータが構築されている。

  • アカマツ・モミ・ツガ天然生

この見本林は三方岳団地の第32林班内(32°23′N,131°10′E,標高1129m)に位置し,区域面積は13.76haである。施業履歴ではアカマツ・モミ・ツガを残し,その他の樹種を除伐する天然林施業(1955・1957・1974)が実施された。

2024


  • スギ長伐期大径木

この見本林は三方岳団地の第33林班内(32°23′N,131°10′E,標高1068m)に位置し,区域面積は11.01haである。スギは宮崎演習林で最も多く植栽されている。このスギ林(オビスギ・ジスギ)は1939年に34,500本(3,000本/ha)が植栽された。その後10,850本の補植(1941~1945)と下刈(1941~1957),除伐枝打(1959・1960・1961・1973),保育間伐(1969・1970・1979・1983),生産間伐1,231本・立木材積619.81m3が実施されてた(1997)。

2011


  • ヒノキ長伐期大径木

この見本林は津野岳団地の第2林班内(32°21′N,131°05′E,標高1196m)に位置し,区域面積は3.73haである。ヒノキは宮崎演習林ではスギに次いで多く植栽されている。このヒノキ林は1950年に6400本が植栽された。その後5930本の補植(1952~1954)と6回の下刈(1953~1962),除伐枝打(1966・1969・1970),保育間伐(1982・1986)が実施された。

2010


  • カラマツ

この見本林は三方岳団地の第24林班内(32°22′N,131°10′E,標高1117m)に位置し,区域面積は2.62haである。1954年に北海道演習林から苗木が持ち込まれ5725本が植栽された。その後5180本の補植(1956~1958)と7回の下刈(1955~1962),除伐枝打(1967),保育間伐(1977・1981)が実施された。

2009


  • アカエゾマツ・トドマツ

この見本林は三方岳団地の第35林班内(32°24′N,131°10′E,標高1107m)に位置し,区域面積は28haである。1974年に北海道演習林から苗木を購入(アカエゾマツ250本・トドマツ250本)し,植栽された。その後は下刈(1974~1986)が実施された。

2009


  • シラカンバ

この見本林は三方岳団地の第35林班内(32°24′N,131°10′E,標高1107m)に位置し,区域面積は0.28haである。このシラカンバもアカエゾマツ・トドマツと同様に1974年に北海道演習林から苗木を購入(650本)し,植栽され,下刈(1974~1987)が実施された。

2011


野生動物モニタリング

  • ニホンジカ密度モニタリング

ニホンジカの増加に伴い農林被害が全国的に発生し,天然林における下層植生の衰退や,人工林における造林木の被害が顕在化している。森林に対するニホンジカの採食圧を定量的に評価するためにはその生息密度を把握する必要がある。そこで長期的はニホンジカの動態を把握することを目的として福岡,宮崎,北海道の3演習林において日中の目撃記録やスポットライトセンサスを用いた生息密度の長期計測を実施している。


  • 生物台帳

宮崎演習林と周辺地域で見られる植物と動物について,2007年から調査を開始した。蓄積されたデータは分類ごとに整理し,ホームページのデータベース「生物リスト」で公開している。


環境モニタリング

  • 気象

気象環境は森林の樹種構成や生産量,物質循環などを決定づける重要な要因であり,基礎的情報である。したがって,基礎情報である気象データを取得することは,研究環境を整えるという意味において必要不可欠であると考えられる。特に近年の気候変動下では,気象要素を記録し続ける重要性が高まっていることは間違いない。本プロジェクトの目的は,各演習林の代表的な地点において,安定的・継続的にある程度の質を保った気象データを取得し,データを整理・管理することである。


  • 水質

九州大学演習林の使命(ミッション)として「福岡,宮崎,北海道という特徴が大きく異なる三つの演習林において,多様な森林の造成・維持,長期間にわたる様々な野外観測の実施,基盤情報の収集管理と提供を図る」ことがが挙げられる(九州大学演習林森林管理運営指針)。福岡演習林・宮崎演習林は国内の中でも東アジア大陸に近いため,越境大気汚染の影響を受けやすい。一方北海道演習林は,国内で東アジア大陸から離れた場所に位置している。このような日本最大の空間的広がりを有するという地理的特徴を生かすことで東アジア大陸からの越境大気汚染について実証的な研究を進めることができる。また,近年シカ食害によって森林の下層植生が消滅し,濁水など渓流水質に与える影響が懸念されている。宮崎演習林の三方岳団地ではほとんどの下層植生が既に消滅しており,津野岳団地においてもここ数年で下層植生が急激に減少している。このような問題に取り組むには,長期データが必要である。しかし,これまで九州大学演習林では,宮崎演習林や福岡演習林において酸性雨や渓流水質に関わる調査,観測は単発的であり長期的な観測が行なわれてこなかった。本プロジェクトではこのよううな問題に取り組むための長期データを取得し,解析を行うことが目的である。


  • 土壌侵食

1990年代まで宮崎演習林内はササに覆われていた。しかしシカの個体数増加に伴う食害により,2000年頃にはササの消失が確認され始め,2022年には宮崎演習林のほぼ全ての森林においてササが消失した。ササには雨の衝撃から土壌を守る効果や,落葉の供給・保持効果があるため,ササが消失した今,土壌侵食が起こり,土壌が流出してしまう場所が増えた。そこで,ササの消失で起こる土壌侵食が,土壌を含めた森林生態系にどの様な影響を与えるのかについて調べている。現在のところ,土壌侵食は土壌微生物や樹木成長に影響を与えることが明らかになった。さらに侵食から土壌を保全する研究を進めているところである。